所得税の仕組み
1 所得税とは
所得税とは個人が1月1日から12月31までの期間(暦年といいます)に稼得した所得(得た経済的利益)に対して課せられる国税です。
2 基本的な考え方
所得税は、個人が得た所得について次の10種類に分類します。
①利子所得
利子所得とは、預貯金や公社債の利子並びに合同運用信託、公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託の収益の分配に係る所得をいいます。
②配当所得
配当所得とは、株主や出資者が法人から受ける配当や投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託以外のもの)及び特定受益証券発行信託の収益の分配などに係る所得をいいます。
③不動産所得
不動産所得とは、次のイからハまでの所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除きます。)をいいます。
イ 土地や建物などの不動産の貸付け
ロ 地上権など不動産の上に存する権利の設定及び貸付け
ハ 船舶や航空機の貸付け
④事業所得
事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得をいいます。
ただし、 不動産の貸付けや山林の譲渡による所得は事業所得ではなく、原則として不動産所得や山林所得になります。
⑤給与所得
給与所得とは、勤務先から受ける給料、賃金、賞与、俸給、歳費などの所得をいいます。
⑥退職所得
退職所得とは、退職により勤務先から受ける退職手当などの所得をいい、社会保険制度などにより退職に基因して支給される一時金、適格退職年金契約に基づいて生命保険会社又は信託会社から受ける退職一時金なども退職所得とみなされます。
また、労働基準法の規定により支払われる解雇予告手当や賃金の支払の確保等に関する法律により退職した労働者が弁済を受ける未払賃金も退職所得に該当します。
⑦譲渡所得
譲渡所得とは、一般的に、土地、建物、株式、ゴルフ会員権などの資産を譲渡することによって生ずる所得をいいます。
ただし、事業用の商品などの棚卸資産や山林などの譲渡による所得は、譲渡所得にはなりません。
⑧山林所得
山林所得とは、山林を伐採して譲渡したり、立木のままで譲渡することによって生ずる所得をいいます。ただし、山林を取得してから5年以内に伐採又は譲渡した場合は、山林所得ではなく事業所得か雑所得になります。
また、山林を山ごと譲渡する場合の土地の部分は、譲渡所得になります。
⑨一時所得
一時所得とは、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得で、労務や役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得をいいます。
この所得には、次のようなものがあります。
イ 懸賞や福引きの賞金品(業務に関して受けるものを除きます。)、競馬や競輪の払戻金
ロ 生命保険の一時金(業務に関して受けるものを除きます。)や損害保険の満期返戻金等
ハ 法人から贈与された金品(業務に関して受けるもの、継続的に受けるものは除きます。)
ニ 遺失物拾得者や埋蔵物発見者の受ける報労金等
⑩雑所得
上記①~⑨のいずれにも当たらない所得をいい、公的年金等、非営業用貸金の利子、著述家や作家以外の人が受ける原稿料や印税、講演料や放送謝金などが該当します。
3 所得税の課税方法
(1) 総合課税制度
① 総合課税制度とは
総合課税制度とは、各種の所得金額を合計して所得税額を計算するというものです。
総合課税の対象となるのは、次の所得です。
イ 利子所得(源泉分離課税とされるものを除く。)
ロ 配当所得(源泉分離課税とされるもの、確定申告をしないことを選択したもの及び 、平成21年1月1日以後に支払を受けるべき上場株式等の配当について、申告分離課税を選択したものを除く。)
ハ 不動産所得
ニ 事業所得(株式等の譲渡による事業所得を除く。)
ホ 給与所得
ヘ 譲渡所得(土地・建物等及び株式等の譲渡による譲渡所得を除く。)
ト 一時所得(源泉分離課税とされるものを除く。)
チ 雑所得(株式等の譲渡による雑所得、源泉分離課税とされるものを除く。)
(注)上記ニ、ヘ及びチに係る所得の計算において、一定の先物取引による事業所得、譲渡所得及び又は雑所得については、他の所得と区分して申告分離課税の方法により所得税が課されます。
② 税額の計算方法
上記①イからチまでの所得の金額を一定の方法により合計した総所得金額から、所得控除の合計額を控除し、その残額に税率を乗じて税額を計算します。
(2) 源泉分離課税制度
① 源泉分離課税制度とは
源泉分離課税制度とは、他の所得と全く分離して、所得を支払う者が支払の際に一定の税率で所得税を源泉徴収し、それだけで所得税の納税が完結するというものです。
② 対象となる所得
源泉分離課税の対象となるのは、主に次の所得です。
イ 利子所得に該当する利子等(総合課税の対象となるものを除く)
ロ 特定目的信託のうち、社債的受益権の収益の分配に係る配当
ハ 私募公社債等運用投資信託の収益の分配に係る配当
ニ 懸賞金付預貯金等の懸賞金等
ホ 次の金融類似商品の補てん金等
ⅰ 定期積金の給付補てん金
ⅱ 銀行法第2条第4項の契約に基づく給付補てん金
ⅲ 一定の抵当証券の利息
ⅳ 貴金属などの売戻し条件付売買の利益
ⅴ 外貨建預貯金で、その元本と利子をあらかじめ定められた利率により円又は他の外貨に換算して支払うこととされている換算差益
ⅵ 保険期間が5年以下などの一時払養老保険や一時払損害保険等の差益
ヘ 一定の割引債の償還差益
③ 税額の計算方法
イ 上記②のイ、ロ、ハ、ニ、ホの場合、収入金額等の20%(所得税が15%、地方税が5%)が源泉徴収されます。
ロ 上記②のヘの場合
償還差益の18%(特定のものは16%)が源泉徴収されます。
(3) 申告分離課税制度
所得税は、各種の所得金額を合計し総所得金額を求め、これについて税額を計算して確定申告によりその税金を納める総合課税が原則です。
しかし、一定の所得については、他の所得金額と合計せず、分離して税額を計算し(この点が総合課税制度と異なります。)、確定申告によりその税額を納めることとなります(この点が源泉分離課税制度と異なります。)。これが申告分離課税制度です。
申告分離課税制度となっている例としては、山林所得、土地建物等の譲渡による譲渡所得、株式等の譲渡所得等及び一定の先物取引による雑所得等があります。
また、平成21年1月1日以後に支払を受けるべき上場株式等の配当所得については、申告分離課税を選択することができます。
4 損益通算
① 損益通算とは
損益通算とは、各種所得金額の計算上生じた損失のうち一定のものについてのみ、一定の順序にしたがって、総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額等を計算する際に他の各種所得の金額から控除することです。
(注)総所得金額とは、次のイとロの合計額に、退職所得金額、山林所得金額を加算した金額です。
※ 申告分離課税の所得がある場合には、それらの特別控除前の所得金額の合計額を加算した金額です。
イ 事業所得、不動産所得、利子所得、給与所得、総合課税の配当所得・短期譲渡所得及び雑所得の合計額(損益通算後の金額)
ロ 総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1の金額
ただし、次の繰越控除を受けている場合は、その適用後の金額をいいます。
● 純損失や雑損失の繰越控除
● 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除
● 特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除
● 上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除
● 特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失の繰越控除
● 先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除
② 損益通算の対象となる所得の範囲
イ 不動産所得
ロ 事業所得
ハ 譲渡所得
ニ 山林所得
(注)ⅰ 利子所得及び退職所得は、所得金額の計算上損失が生じることはありません。
ⅱ 配当所得、給与所得、一時所得及び雑所得の金額の計算上損失が生じることはありますが、
その損失の金額は他の各種所得の金額から控除することはできません。
ⅲ 生活に通常必要でない資産に係る所得の金額の計算上生じた損失は、
競走馬の譲渡に係るもので一定の場合を除き、
他の各種所得の金額と損益通算できません。
ⅳ 不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額のうち、次に掲げるような損失の金額は、その
損失が生じなかったものとみなされ、他の各種所得の金額から控除することはできません。
・別荘等の生活に通常必要でない資産の貸付けに係るもの
・土地(土地の上に存する権利を含みます。)を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額
・一定の組合契約に基づいて営まれる事業から生じたもので、その組合の特定組合員に係るもの
ⅴ 申告分離課税の株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失がある場合は、
株式等に係る譲渡所得等以外の所得の金額と損益通算できません。
また逆に、株式等に係る譲渡所得等以外の所得の損失も、
株式等に係る譲渡所得等の金額と損益通算できません。
ただし、平成21年分以後の所得税の確定申告において、上場株式等に係る譲渡所得等の
金額の計算上生じた損失の金額がある場合には、申告分離課税を選択した
上場株式等に係る配当所得の金額から控除することができます
(当該上場株式等に係る配当所得の金額を限度とします。)。
ⅵ 申告分離課税の先物取引に係る雑所得等の金額の計算上生じた損失がある場合は、
先物取引に係る雑所得等以外の所得の金額と損益通算できません。また逆に、
先物取引に係る雑所得等以外の所得の損失も、
先物取引に係る雑所得等の金額と損益通算できません。
ⅶ 譲渡所得の金額の計算上生じた損失のうち、一定の居住用財産以外の土地建物等の
譲渡所得の金額の計算上生じた損失がある場合は、
土地建物等の譲渡所得以外の所得の金額と損益通算はできません。
また逆に、土地建物等の譲渡所得以外の所得の損失も、
土地建物等の譲渡所得の金額と損益通算できません。
5 所得控除
所得税法では所得控除の制度を設けています。
これは、所得税額を計算するときに各納税者の個人的事情を加味しようとするためです。
それぞれの所得控除の要件に当てはまる場合には、各種所得の金額の合計額から各種所得控除の額の合計額を差し引きます。所得税額は、その残りの金額を基礎として計算されます。所得控除の種類は次のとおりです。
雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、 小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、 地震保険料控除、寄附金控除、障害者控除、寡婦(寡夫)控除(この控除は女性の場合と男性の場合とで要件に差があります。)、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除
このうち基礎控除の額は38万円です。
なお、日本国内に住所などがない、いわゆる非居住者の場合の所得控除は、雑損控除、寄附金控除、基礎控除の三つです。
6 所得税の税率
所得税の税率は、分離課税に対するものなどを除くと、5%から40%の6段階に区分されています。
課税される総所得金額(千円未満の端数金額を切り捨てた後の金額です。)に対する所得税の金額は、次の速算表を使用すると簡単に求められます。
所得税の速算表 | ||
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超 | 40% | 2,796,000円 |
7,000,000円×0.23-636,000円=974,000円